訪問看護におけるコミュニケーション技法とは?

訪問看護にとって、ご利用者様およびそのご家族様との円滑なコミュニケーションはとても重要です。ご利用者様にとっては、対応する看護師次第で、毎日の暮らしが「快」にも「不快」にもなります。

訪問看護におけるコミュニケーション技法は、ご利用者様との信頼関係を築き、質の高いケアを提供するために重要です。

本コラムでは、代表的なコミュニケーション技法を紹介し、また訪問看護師がご利用者様と円滑にコミュニケーションをとるうえでのポイントをお伝えしていきます。

言葉によるコミュニケーションの特徴

人は、その進化の過程で言語を発達させてきました。それにより、自分の思考や感情を、論理的に伝達することができるようになりました。

人が他の動物と異なり、理性的動物であるとされるのは、人は言語を操り使用する動物だからです。

言語的コミュニケーションは、人と人が思考・感情を伝達し会うときの基本的手段です。会話の他、文字や手紙、電話、電子メールなども言語的コミュニケーションであり、社会生活になくてはならないものです。

訪問看護の現場でも、言語的コミュニケーションによって思考感情を伝達し合うことが基本となります。ご利用者様が、自分の現在の感情を伝えたいとき、例えば今、「自分はとても嬉しい」など、具体的にどのような種類の感情で、どの程度のなのかを、言語で表現する事が出来ます。

一方、訪問看護師の側も、ご利用者様が言葉によって表現した内容を、自分がどう受け取ったのかを言語的コミュニケーションによって伝えていくことができます。

言語的コミュニケーションは、アクティブリスニングと類似した考え方であり、 アクティブリスニングとは、相手の話を注意深く聞き、理解し、適切なフィードバックをする技法です。具体的には以下の要素があります。

  • 目を見て話を聞く:相手に注意を向けていることを示します。
  • 頷きや相槌:相手の話を理解していることを示します。
  • 要約と反復:相手の言ったことを自分の言葉で繰り返すことで、正確に理解していることを確認します。

言葉以外でのコミュニケーションの特徴

言葉以外のコミュニケーションとしては、表情や態度、身振りや手振り、声の調子や髪型・服装・化粧・身体的接触(スキンシップ)などがあります。

訪問看護師がご利用者様の心身の状態を把握する際には、言葉だけでなく言葉以外の情報にも着目することが重要です。相手の表情や体の動きを観察し、適切に対応することが求められます。言葉以外でのコミュニケーションを通して、ご利用者様に関する多くの情報を得ることができます。

例えば、「昨晩はよく眠れたので体力が回復した」といった言葉をご利用者様が語った場合、その時の表情や声の調子などの、言葉以外のコミュニケーションに基づいた情報を受け取ることも大切です。言葉によるコミュニケーションで得た情報と併せて、総合的にご利用者様の心身の状態を理解していきます。

もしも何か気がかりなことがあれば、訪問看護師は、ご利用者様とのコミュニケーションをさらに重ねながら確認して行きます。

言葉以外のコミュニケーションを通して、ご利用者様の気持ちを理解するにあたってのポイントは、次の通りです。

表情・共感

表情筋が、目、鼻、唇、頬、額、眉などを通して、喜びや驚きなどの感情表現をつくりだしています。「目は口ほどに物を言う」というように、感情は言葉よりも表情に出やすいと言われ、看護の現場においても、ご利用者様の表情を見逃さないようにすることが大切です。

加えて、相手の気持ちに共感することで信頼関係を築きます。「あなたの気持ちはよくわかります」といった言葉を用いることで、相手に寄り添う姿勢を示します。

態度、身振り、手ぶり

人は、情報を伝える際、言語野や表情のほかに、無意識のうちに態度にも現れることがあります。相手の話を聞き入れようとすれば、自分の体も相手の方を聞きますが、逆に拒否的な感情を持っている場合は、相手から視線や顔の向きをそらしたりします。また、何かを懸命に伝えたいときは、身振り手振りも大きくなります。

ご利用者様の日常生活の動作が緩慢になったり、介護を受けている時に拒否的な態度をしていると感じたら、ご利用者様は不安や不満を抱えているかもしれません。言葉では伝えられなくても、体調を崩していたり、疲れているのかもしれません。そうしたご利用者様のニーズを見逃さないように注意することが大切です。

また、そうした場合にはご利用者様だけでなく、そのご家族様とも良好なコミュニケーションを維持することが大切です。ご家族様の意見や感情も尊重し、共にご利用者様をサポートする姿勢を示します。

訪問看護におけるこれらのコミュニケーション技法を適切に用いることで、患者との信頼関係を深め、より質の高いケアを提供することが可能になります。

声の調子

声の高低や強弱、話すスピード、間の取り方などは、いずれも言葉によるコミュニケーションに伴い、感情を表現しやすいものです。従ってご利用者様から発せられる言葉よるメッセージと合わせて、こうした声の調子を合わせて注意を払う必要があります。

髪型・服装・化粧

髪型・服装・化粧などの身だしなみは、ご利用者様の心身の状態を把握するための重要な情報となります。普段から、ご利用者様の様子を観察することによって、身だしなみの乱れなどによる、ご利用者様の変化をすぐに察知できるにする必要があります。

身体的接触

身体的接触は、パーソナルスペースの維持を困難にすることから、ご利用者様が受ける感覚にも影響を及ぼします。看護に必要な接触であることを伝えるとともに、必要に応じて同意を得ることが重要です。

文化的配慮

ご利用者様の文化的背景を尊重し、その文化に適したコミュニケーションを行うことが大切です。文化的背景によっては、特定の表現や行動が誤解を招くことがあるため、注意が必要です。

看護におけるコミュニケーションの技法とは!?

訪問看護師は、常にコミュニケーション能力を高める努力を続け、ご利用者様と相互の意思の疎通を図りより良い人間関係を形成して行く必要があります。

ご利用者様やそのご家族様との信頼関係を築くことが、利用者様のニーズを引き出し、適切な看護の提供にもつながります。そのためにもコミュニケーションの技法の習得は欠かせません。

では、訪問看護における具体的なコミュニケーション技法について、見ていきましょう。

1)話し方・問いかけ方

礼儀正しく笑顔で対応

コミュニケーションの第一段階は、ご利用者様が話しやすい環境を作ることです。よく「人の第一印象はあてにならない」などと言われ、付き合いを深めていくうちに相手の良さに気付くこともありますが、看護の現場では、清潔感のある身だしなみも含めた、第一印象が重要です

訪問看護では、訪問時の立ち姿やお辞儀の仕方に常に気を配り、礼儀正しく背筋を伸ばして挨拶をします。挨拶はお互いを認識し合うコミュニケーションの原点です。また明るい笑顔で対応することが大切であり、ご利用者様に敬意を払い、相手を受け入れる姿勢が伝わるように、心がける必要があります。

話し方の基本

話し方の基本は、自分の声を相手に届けることです。語尾が消えかかったり、はっきりしないくらいの声では、言いたいことが伝達されず、誤解も生じやすくなります。相手に届く話し言葉は、声の大きさや距離感もポイントとなります。

看護におけるコミュニケーションでは、ご利用者様に声が届くことを、少しでも意識して関わると、ご利用者様の反応も変わってきます。

問いかけ方

問いかけ方は、ご利用者様との関係づくりにおいて、重要なコミュニケーション技法の一つです。訪問看護師は、ご利用者様との関わりの中で、コミュニケーションによる訴えや、ニーズに込められた想いを、さらに明確に引き出して行くことが求められます。

看護において、ご利用者様の訴えやニーズ、置かれた状況などを明確にするための問いかけ方(質問の技法)には、いくつかの種類があります。

2)「クローズドクエスチョン」と「オープンクエスチョン」

クローズドクエスチョン
クローズドクエスチョンとは、「はい」または「いいえ」で簡単に答えられる質問です。選択肢を示して問いかけることで、答えの範囲をあらかじめ限定して質問します。

ご利用者様が多くを語らない初期の段階から、信頼関係を発展させたい場合や、相手の意向や状況を具体的に明らかにしたい場合に使用すると効果的です。例としては、「痛みはありますか?」「昨夜は眠れましたか?」「お薬は飲みましたか?」などと問いかけます。

答えの範囲があらかじめ限定されているので、自分で回答内容を考えなければならない質問方法よりも、答えやすいと言えます。しかし、ご利用者様が自由に回答内容を発展させ、自分なりに深めていこうとする時には、この「クローズドクエスチョン」の場合は制約を受けてしまいます。

オープンクエスチョン
「最近、どのように感じていますか?」「一日の中で、どんなことが一番困難ですか?」というように、自由に回答できるように問いかける方法です。クローズドクエスチョンのように、答える範囲を限定制約するものではないので、質問された側は回答する内容を、自分で自由に考え発展させながら意向を伝えることができます。

看護の現場では、ご利用者様の自主性や自律性を促しながら、より多くの情報を引き出していく場合の質問技法と言えます。

慣れてきたら、ご利用者様の障害の状態や、信頼関係の段階などに応じて、双方の問いかけ方を組み合わせ、意向やニーズを明確にしたり、話題を展開させるなどして、相互コミュニケーションを深めていきます。

ご利用者様との間で信頼関係が構築できた段階では、非常に有効な技法ですが、まだ構築できていない段階では、うまく気持ちや考えを引き出せないこともあります。まずはクローズドクエスチョンで答えやすい質問を行い、徐々にオープンクエスチョンを取り入れていくといった方法が効果的です。

3)傾聴の姿勢を基本にした技法

看護・介護におけるコミュニケーションを円滑に進めるためには、ご利用者様の考えや感情を、できる限り表現しやすくするような技法が求められます。上記で解説した、話し方や問いかけ方に加えて、相手の話を聞くときは、傾聴の姿勢を基本にした、うなずきや相槌、繰り返しや言い換えなどの技法を加えると、更に効果的です。

うなずき、相づち、促し

傾聴の基本は、相手の話に合わせて首を縦に振る「うなずき」と、「そうですか」「なるほど」などと、声を出す「相づち」です。更には、「そうだったのですか」や、「その後はどうなりましたか?」「それは気づきませんでした」「もっと詳しく教えてくださいますか?」などのように、ご利用者様の話をしっかり受け止め、話の展開にも興味を示して行く形の「促し」も有効です。

ご利用者様は、「この人はよく話を聞いてくれている」「受け入れてもらえている」と実感できるので、自分が語りたかったことを表現しやすくなります。そして、「次もこの人と話したい」「話を聞いてもらうと楽しい」という信頼も得やすくなります。

繰り返し、言い換え

ご利用者様とのコミュニケーションでは、傾聴することで、ご利用者様の本当に言いたいことは何かに気づくことができます。それに気付いた時点で、ご自分の理解を確かめるため、ご利用者様の話したことを、繰り返して尋ねます。これは、繰り返しと呼ばれる技法で、さらに相手の言葉をそのままオウム返しにするのではなく、話の意味を汲み取り、違う言葉で言い換える言い換えという技法も効果的です。

このような「繰り返し」「言い換え」を行うことで、ご利用者様は「自分の言ったことをしっかりと聞き理解しようとして確かめてくれている」と感じることができるため、訪問看護師にとっては、より深くご利用者様とのコミュニケーションを深めることができるでしょう。

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